「共創」のすすめ方。vol.1

【ペットと人のニューノーマルを創造し、拡張するこれからのビジネスの作り方 #1 】

ゲスト:富士通総研エグゼクティブ・コンサルタント 柴崎辰彦 氏


獣医療を起点とし、人とペットの間にある課題を解決するスタートアップスタジオ「QAL startups」。その中心メンバーにして、獣医師・連続起業家である生田目康道(QAL startups代表取締役)が、これからのペット業界に求められるビジネスの姿を探求していく連続対談シリーズ。


その第1回目として、現在は富士通総研のエグゼクティブ・コンサルタントで、長らく富士通にて「共創」によるイノベーション創出を推進してきた柴崎辰彦氏にご登場いただきました。


■「共創」は「協業」と勘違いされている


生田目: 長年、ペット業界で仕事をしてきて、外部の企業の方から、何度か新規参入の相談を受けたことがあります。しかし、実際のビジネスのスケール感が先方の想定よりもずっと小さかったり、事業として成り立つ基準に達しなかったりといったことが多く、なかなか業界外の方々との「共創」がうまくいかない状況が続いています。イノベーションを起こすためには「共創」が重要だとは理解しつつも、ペット業界にたちはだかるこの壁をどのように突破していけばいいのでしょうか?


柴崎: 確かに「共創」、あるいは「オープンイノベーション」は、ここ数年ブームになっています。しかし、ちょっと私としてはこれらの言葉が軽々しく使われすぎている気がしているんです。


生田目: どういうことでしょう?


柴崎: お客様やパートナー企業とのコラボレーションの形を、富士通のビジネスを例に説明してみましょう。私たちは従来、売り上げの大半を受託型ビジネスに頼っていました。クライアントから依頼を受けて情報システム部門の業務を支援できるサービスを販売する。これはSell & Buy、つまり「支援」の関係です。これが1段階進むとGive & Take、「協業」の関係になります。

例えば、他社さんがクラウドのサービスを発表したとき、富士通の販売チャネルを使っていただきました。同業であっても互いにメリットのある関係を結び、そこで得られた売り上げは折半するモデルです。ただし、このような形は利益でつながっているだけに、「金の切れ目が縁の切れ目」といったことになりかねない関係でもあります。


生田目: なるほど。


柴崎: いま多くの企業で「共創」と言われている取り組みは、実態としては、この「協業」にすぎないことが多いのではないかと感じています。「共創」とは、新たな市場を生み出すために多様なプレイヤーが協力し、そこで得られた利益をみんなでシェアする仕組みです。共に創り、共に分け合う。Create & Shareのモデルといえるでしょう。

では、この「共創」では多様なプレイヤーが何によってつながるのか。それは「共通善」です。利益ではなく、社会的に多くの人が合意できる目標を掲げ、その目標に共感してくれた人を仲間として集める。そうすることで企業だけでなく、行政や大学など、組織も立場も違う人たちが一体となり、目標の実現のために向かっていくことができる。今回の場合は、生田目さんたちの会社の名前にもなっている「QAL=Quality of Animal Life(動物の生活の質)」の向上がベースになるでしょう。

そう考えたとき、ペット業界における「共創」のために必要になるのは、QALの向上を実現するために、どんな「共通善」を設定すればいいのか。どんな「共通善」を掲げれば、業界内外のプレイヤーに共感してもらえるのか。そこをうまく設定することが最初の一歩になると思います。