周囲を巻き込む、「未来の物語」の描き方。 vol.3

【ペットと人のニューノーマルを創造し、拡張するこれからのビジネスの作り方 #4 】

ゲスト:quantum執行役員 川下和彦 氏


■自分の経験から話さなければ誰も耳を傾けてくれない


生田目: そのうえで新規事業開発のリーダーには、人を巻き込む力も欠かせません。川下さんは「妄想」とおっしゃいましたが、実際に起業家は「思い込みと勘違い」で前に突き進んでいくものだと思います。でも、それだけでは周囲を巻き込んでいけない。起業家の思い込みと勘違いをどう魅力的に伝えるか。そこで「物語」にすることが必要だと川下さんはおっしゃっているわけですが、どうすればたくさんの人が納得できる物語を描くことができるのでしょう?


川下: これは逆にお聞きしたいのですが、生田目さんは過去にたくさんの経営判断をなさっていますよね。そのとき周りから反対されても、「これは」と確信できたときがあったと思うんです。どんな有望そうに見える事業も、反対する人は必ずいますから。そういうときに何が判断の決め手になってきましたか?


生田目: いちばんは、好きか嫌いか、ですね。事業というものは絶対に計画通りにはいかないものです。どこかで必ずトラブルに直面するし、社員がついてこなくなることだってあるかもしれない。そのとき「これは儲かりそうだから」だけでやっていたら、心が折れるんですよ。でも、自分がどうしてもやりたいと思っていることだったら、根負けせずに「それでも」と何度も周囲を説得しようとします。そのくらいの覚悟を持つためには、自分自身が本気で事業の可能性を信じられるくらい好きじゃないといけないんです。


川下: その熱意を、説得的に描くのが物語です。リーダーの熱意から始まり、それがもたらす未来の姿を魅力的に描くことで、「だから一緒にやろうよ」と説得していく。未来の物語を描くとは、そういうことなんです。


じゃあ、どうやって説得的な物語を描くか。私は自分の経験を率直に語ることが、もっとも効果的なのではないかと思っています。


私は自分でメディアに記事を書いたり、書籍を出したりもしているのですが、これは以前PRの仕事をしていた時に、どんなコンテンツが読まれるのか、あるいは読まれないのか、理屈ではなく痛みを伴う経験を通して知りたいと思ったからです。そんな経験もないのに偉そうに「こういう記事が読まれるんです」なんて言っても、誰も耳を傾けてくれないですよね。


これは企業の物語を描く際にも同じことです。トップのメッセージだけを伝えるのではなく、そこに至るまでの挫折や失敗の経験も交えながら伝える。人の感情の機微に触れる要素を入れて、自分の経験を再構築する。そうやって多くの人が共感できる物語にしていくことで、はじめて周囲を巻き込んでいくことができるのだと思います。