獣医師にも「ビジネスマインド」を。vol.1

【ペットと人のニューノーマルを創造し、拡張するこれからのビジネスの作り方 #5 】

ゲスト:東京農工大学名誉教授・獣医師 岩﨑利郎 先生


獣医療を起点とし、人とペットの間にある課題を解決するスタートアップスタジオ「QAL startups」。その中心メンバーにして、獣医師・連続起業家である生田目康道氏(QAL startups代表取締役)が、これからのペット業界に求められるビジネスの姿を探求していく連続対談シリーズ。


その第5回目は、日本における獣医皮膚科のパイオニアが登場。日本獣医皮膚科学会会長、アジア獣医皮膚科専門医協会会長を歴任され、東京農工大学名誉教授でもある岩﨑利郎先生に、獣医師としての観点から、これからの動物医療に求められるビジネスマインドについてうかがった。


■動物医療には経営支援の仕組みが足りない


生田目: ビジネス視点で見たとき、動物医療の領域は決定的にプレイヤーが足りていません。ヒトの医療では当たり前に実現しているサービスも、未だにないものが多々あります。例えばいま開いている病院をスマホで探せて、そこから診療予約もできるといったものですら整っていません。


それを解決するには、動物医療の業界だけの取り組みでは難しい。だからこそ、多様な業種の方々との協業で、動物医療を基点としたさまざまな事業を生み出していきたい。そういう意志を持ってQAL startupsを立ち上げました。


岩﨑先生は日米の大学、製薬会社、臨床の現場とさまざまな立場から動物医療を見てこられました。「もっとこういうものがあったらいいのに」と感じられているものがあれば、ぜひご意見をいただきたいと思っています。


岩﨑: よくわかりました。僕は動物医療だけでなく、英ウィメンズクリニックという不妊治療の専門クリニックにも所属し研究しています。そこでは毎月一回、接遇セミナーがあるんですね。企業研修の専門の人に来てもらって、接客コミュニケーションを指導してもらう。


医療を顧客視点から改善していくためには、コミュニケーション教育が必要になります。しかし、クリニックの院長がその教育をできるわけではない。だから、社員教育を支援してくれる外の方々と連携する。それは一般企業では普通のことですよね。ヒトの医療ではそういうことが浸透してきています。だから、動物医療でも同じような動きがあっていいのではないかと常々思っています。


それから経営を支援する仕組みもあっていいのではないか。ヒトの病院なら、大きなところには必ずマネージャーがいて、日々の細かい業務を担当してくれます。英ウィメンズクリニックでも、税理士と日々の診療データを連携し、給与の支払いなどを委託しています。そういうものが動物医療にはまだまだない。


医療以外の業務から解放されるそういった仕組みがあると、もっと獣医師が医療行為に集中できるようになるのではないでしょうか。


生田目: おっしゃる通り、動物医療における経営支援は、採用のためのヘッドハンティングみたいなサービスしかありません。スタッフ教育の支援だったり、経理といった管理業務そのものをサポートする仕組みがない、というご指摘ですね。


岩﨑: いまはオンラインの経営管理システムがたくさんあるので、例えばそういうものを利用できるようになるだけでも随分と獣医師が楽になると思います。ただ、獣医師に特化したサービスを提供してもらうには、動物医療業界のパイが小さすぎるんですよ。


生田目: だからこそ、QAL startupsでペット事業に興味を持っている業界外の企業を呼び込みたいと思っています。確かに動物医療業界は狭い業界ですが、ゼロからサービスを立ち上げるのではなく、すでにある他業種向けのシステムをカスタマイズして提供するといったアライアンスを組むなど、ビジネスとして成立させるやり方はいろいろあるはずです。


QAL startupsの立ち上げ以来、動物医療業界への参入に興味をお持ちの業界の外の方々に、まずこうした動物医療業界の現状、抱えている問題点を知ってもらうだけでも大きな意味があると感じています。


>> https://qalstartups.co.jp/