『引受開業』で院長の想いと地域における役割を引継ぐ開業動物病院を作りたい Vol.4

【 QAL startups流 新規事業の作り方 #2 】


ゲスト

・佐藤 健(M&Aの窓口代表取締役社長)

・久野 知(QAL startups取締役社長)


■動物病院の事業承継市場の課題

生田目: 「売手:買手=1:10」となると、値段も良い価格がつきやすいのでしょうか?


佐藤: 実はそうでもありません。大企業の経営者の場合は、何を基準に買手を見つけているのかというと、経済状況が最優先されます。端的に言えば、少しでも高く買ってくれるところに売りたい。しかし、中小零細企業のスモールM&Aの場合は、相手の経済状況以上に感情で決まります。いくらお金を持っていても、「自分が長年勤めていた会社をどんなに高く買ってくれても、この人には売りたくない」という気持ちが働くのです。逆に非常に紳士に会社、従業員、お客様のことを考えてくれる人には金額度外視で明け渡すケースもあります。これは日本の経営者独特の感性だと思います。


会社はものではなく、自分の生き様や家族なんだというイメージを持っているので、自分の娘を嫁にやるような感情になるのでしょう。その時に大金持ちのところでもいいですが、やはり大事にしてくれるところに出したいんですよ。逆に言えば、買手はそのマインドをわかった人が良い案件をとることができています。


今、買手がすごく多くなっています。なぜかというと、高度経済成長期の時は売上を上げようと思ったら、営業マンを増やしてお客さんを獲得していけましたが、安定成長時代になると、どんなに頑張ってもお客さんがとれなくなっているので、それならば廃業しているお店を買い取ってお客さんごと取り入れるほうが事業拡大をしやすいのです。専門的で新規開拓ができない業種ほど、そのような動きが多くなってきています。自分でイチからやろうと思ったら、非常に多くの資金がかかり、お客さんを開拓して知名度を広げるにはすごく時間がかかります。それならば既存の店舗を買い取っていったほうが時間も節約できるし、リスクも圧倒的に少ないのです。だから新規開業はM&Aのほうがいいという流れになっています。


実際に、人材採用、顧客開拓、エリアの拡大、サービスの拡充を含めて、それらの解決にはM&Aが有効であると多くの事業者が気付き始めました。一方で先ほど述べたように、潜在的な売手は多数いるのに売り案件が少ない。


良い売手とは儲かっている会社ではありません。見えない資産が購買の対象となります。見えない資産とは「地域での信用」「顧客への知名度」「立地」等の決算書に現れない価値であり、多くの売手のもつ条件が買手にとって垂涎の的となることがあるのです。


久野: 確かに、売手がいなければM&Aとしては成り立たないのは当然ですね。ただ、動物病院の場合、新規開業と事業承継のコストとメリットを比較した際に、新規開業よりもM&Aのリスクが高ければ、選択する必要はありません。今、市場の価格が高止まりしている感じがあるので、これは金銭面だけではなく、見えない資産、つまり集患・ブランドなどすべての面を鑑みて、新規開業よりもメリットがあるかどうかが焦点になると思います。見えない資産のメリットがほとんどないにもかかわらず、一般的な新規開業の倍以上の費用をかけてM&Aをしている個人の獣医師を見ると心配になります。


生田目: あくまで事業承継もM&Aも開業の選択肢の一つとして、客観的に比較検討できるようであればいいということですね。


>> https://qalstartups.co.jp/