“子どもが生まれたときに犬を飼うといい”
“命の大切さを学ぶことができる”
“面倒見がよくなる”などの話を耳にすることがあります。
“アニマルセラピー”について動物視点を大切に動物行動学を専門に研究され、愛玩動物看護師の養成大学で教鞭をとる堀井隆行さんに、動物との関わりが子どもの発達に影響を与えることや、動物との暮らしで大切にしたいこと、今後の課題などについて、すばるコレクト運営の生田目康道がお話をお聞きしました。(取材:2025年3月10日)。
ゲスト
堀井 隆行(ほりい たかゆき)
ヤマザキ動物看護大学 動物看護学部 動物人間関係学科 伴侶動物行動管理学研究室 講師
修士(動物応用科学)。
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Vol.1 動物とのよりよい関わりが、他者への思いやりや情緒的な成熟へとつながる機会になります
生田目康道(以下、生田目):今回は、日ごろより動物行動学の視点から、高齢者や小学生などの子どもへの動物介在介入の効果や方法等を研究されていらっしゃる堀井先生にお越しいただきました。堀井先生、よろしくお願いいたします。
堀井隆行さん(以下、堀井):どうぞ、よろしくお願いします。
生田目:さっそくですが、私から堀井隆行先生について紹介させていただきます。堀井先生は、ヤマザキ動物看護大学動物看護学部動物人間関係学科の伴侶動物行動管理学研究室で講師をされています。いわゆる動物行動学がご専門ですね。動物を介在させる活動では、動物の適性を評価し、活動で動物に起因する事故が起こらないようにリスク管理を担われています。また、ペットとして関わることの多い犬や猫を対象に「ストレス管理」と「行動修正」を主な研究テーマとし、ストレス緩和効果や、飼い主の体臭の影響、生活環境のエンリッチメント効果などを研究されています。さらに、犬や猫が認知する力や効果的なトレーニング方法についても研究されており、発達特性のある人に対する犬の介在方法に関する論文も発表されています。
堀 井:ご紹介ありがとうございます。
生田目:今までは、動物医療出版社として先生とは動物看護教育の面で関わらせていただいておりましたが、本日は、子どもの発達支援に悩みを抱える保護者に向けて、動物との関わりについてお話を聞かせていただけたらと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
生田目:子どもの情操教育のためにペットを飼うといい、という話であったり、人の健康維持にペットが良い影響をもたらしたりする、といった話はよく耳にします。私自身学生時代に犬を飼っていた経験から、なんとなくそのような良い影響というのはありそうだなと感じることはありましたが、実際にはどうなのでしょうか?
堀 井:そうですね、そのような話を皆さん1度は耳にしたことがあると思います。最近では、オキシトシンというキーワードで語られることも多くなりましたね。実は、ペットや動物と触れ合ったり一緒に生活したりすることで得られる恩恵に関する研究は、1980年頃から活発に行われています。それらの研究の積み重ねから、さまざまなことが明らかになってきています。特にペットとの触れ合いは、心理的効果、生理的・身体的効果、社会的効果の3つの側面が知られており、心身の健康を促進する効果があるとされています。
生田目:40年以上前から研究がなされているとは驚きです。具体的にはどのようなことが明らかになってきているのでしょうか。
堀 井:代表的なものとして挙げられるのはストレスの軽減でしょう。この分野は本当にたくさんの研究が行われています。ペットと触れ合うことによってリラクゼーション効果が高まり、またストレスが緩和されるとコルチゾール値の低下や血圧の低下、心拍数の安定などが起こります。さらに、免疫系が活性化し健康的な生活習慣が促されることも確認されています。
生田目:逸話的に語られているものも多くあると思いますが、実際にさまざまなことが明らかになってきているのですね。ちなみに、ペットと言えば、犬や猫が多いと思いますが、動物種による効果の違いなどは報告されているのでしょうか。
堀 井:そうですね。たとえばコミュニケーション応答がきちんとあるかないかによって、社会的な部分の効果っていうのは随分と変わってくると思います。例えば観賞魚とか爬虫類のように、『環境を飼う』といわれる動物たちは、環境を設定してそれを眺める形で楽しみます。このような動物たちに対しては、子どもたちが自分で声をかけることはあっても、反応はほとんど返ってきません。声をかけて、その対象から反応が返ってくるというコミュニケーションがとれる確率においては、やはり犬や猫は各段に高いですよね。日本では飼育するという点ではメジャーではありませんが、馬も人とのコミュニケーションが活発な動物ではあります。
生田目:なるほど。そういう観点で見るんですね。たしかに、“応答”という面では動物種によって全く違いますね。
堀 井:体が小さいものなら、ウサギが浮かびます。ウサギはある程度コミュニケーションをとれますが、もともと人と視線を合わせるような動物ではありません。まだモルモットのほうが鳴いてアピールをしてくることが比較的ある動物なので、人に対して応答がある面では適当といえるでしょう。あとは愛玩鳥でしょうか。羽毛や糞便の管理が難しい点はあるのですが、よく人に慣れてコミュニケーションもとりやすい動物だといえるでしょう。
生田目:あらためてお話を聞くと、やはり犬と猫たちがほかの動物たちに比べても効果が高いというのが伺えますね。
堀 井:はい、より社会的な効果が期待できるのは犬だと思います。具体的に言えば、犬を飼っている人は散歩のために外に出るので、その結果として社会的なつながりが促進されることが明らかになっています。また、孤独感や社会的孤立が軽減されるとも言われています。定期的な運動習慣がつくため、その生理的・身体的効果も大きいと思います。
生田目:確かに犬を飼っていると毎日の散歩は必須ですし、その中で飼い主同士の交流が生まれるのはよく分かります。子どもたちにとっても、他者と関わるきっかけになったり、お世話をする中で達成感を得たり、責任感を持つことにつながりそうですね。
堀 井:はい、おっしゃる通り、他者との関わりをつくるきっかけや責任感へとつながることは間違いありません。さらに、動物と関わることで、自分以外の生き物に対して思いやりを持つようになり、喜びや悲しみなどの情緒的な成熟が促される機会となるでしょう。最近の研究では、犬を飼っている子どもたちが他の子どもたちと比べて、より積極的に社会的交流をしたり、他者への共感能力が高い傾向が見られたりしていることも報告されています。
生田目:ありがとうございます。思いやりや共感性といった非言語コミュニケーションについての学びが得られることはとても大切なポイントですね。
堀 井:ペットとの良い関係を築くことができれば、とても良い効果を期待することができますが、一方で逆に家庭内でのストレスを抱える結果となってしまったり、ペット自身にもストレスがかかる可能性があります。これは一般家庭でも言えることですが、子どもの情操教育によい、という意図でペットを迎えたはずなのに、実際には親御さんの負担が大きくなってしまうケースも多くあります。また、経済的な面での負担も大きくなるため、安易にペットの飼育を始めることはお勧めできません。
生田目:確かにその通りですね。
堀 井:突発的な行動や大きい声などといったことは、どうしてもペットにとってもストレスになってしまうことは容易に考えられます。お子さんの特性を考えるとともに、動物との相性・マッチングはとても重要だと考えられます。そうは言っても、飼育し始めてから初めて分かることも多いと思いますので、万が一ペットと子どもの相性が悪かった場合のことも考えておく必要があるでしょう。
生田目:ペットを飼うことを目的にするのではなく、一緒に心地よく共存することを目的とすることが大切ですね。
Vol.2に続く
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