「共創」のすすめ方。vol.2

【ペットと人のニューノーマルを創造し、拡張するこれからのビジネスの作り方 #1 】

ゲスト:富士通総研エグゼクティブ・コンサルタント 柴崎辰彦 氏


■『七人の侍』と「下町ボブスレー」の共通点


生田目: つまり、「共創」でイノベーションを起こそうとするなら、お金を動機にしてはならないということでしょうか?


柴崎: お金はもちろん大切ですが、「共創」のコミュニティを作るためには、お金より、もっと大きな大義が必要だということです。これを説明するためのたとえ話として、私はよく黒澤明監督の映画『七人の侍』を例にあげます。ご覧になられたことは?


生田目: いや、ありません。もちろん作品自体は存じ上げているのですが。


柴崎: でしたら、ぜひ観ていただきたい。黒澤明は「共創とは何か」なんて考えたわけではないですが、この映画は組織論として素晴らしいモデルになっています。映画のあらすじは、「村を盗賊から守るために、農民と、彼らに雇われた侍が一致団結して戦う」というものです。

ただ、お金で雇われたにすぎない侍たちが、いきなり協力し合えるわけはなく、映画の途中でこのチームは空中分解しそうになります。そこで鍵を握るのが、三船敏郎が演じた菊千代という侍です。実は彼は農民出身のニセ侍でした。しかし、だからこそ非力な農民の気持ちも分かる。

菊千代の呼びかけに応えるかたちで、7人の侍は「村人を盗賊から守る」という「共通善」を見出します。「お金のため」ではなく、「村人のため」という大義で一致団結を果たすのです。これが理想的な「共創」のあり方です。

生田目: お金だけでつながっているチームは、まさに「金の切れ目が縁の切れ目」になる、と。


柴崎: そうです。「しょせん映画の話でしょう」と思う方もいるかもしれませんが、もうひとつ、「下町ボブスレー」という例もあります。生田目さんはオリンピックに出場するようなチームのボブスレー用のそりは、どこが作っているかご存じですか?


生田目: どこでしょう?


柴崎: フェラーリやBMWといった海外の自動車メーカーです。彼らは最新技術の実験場としてボブスレーを活用しています。そこに目をつけたのが、苦境にあえぐ東京都大田区のものづくり企業でした。

大田区は町工場で栄えた街であり、最盛期には数千社もの中小企業がありました。しかし、現在では半数以下に激減してしまっています。せっかく高い技術力を持っていても、それを世界に示さなければ潰れる一方となってしまう。

そんな危機感を抱いた大田区のものづくり企業は、自分たちの技術力に注目してもらうための手段として、「オリンピックでメダルを獲得できるボブスレー用そりを作る」という目標を掲げます。このプロジェクトに参加した企業は100社以上。

本来なら競争関係にあるはずの企業たちが、「大田ブランドを世界へ」という大義に共感したことによって団結し、実際の大会で好成績を収めるようなそりを誕生させています。この事例からも「共創」の中心には「共通善」が欠かせないことが分かってもらえると思います。