「共創」のすすめ方。vol.3

【ペットと人のニューノーマルを創造し、拡張するこれからのビジネスの作り方 #1 】

ゲスト:富士通総研エグゼクティブ・コンサルタント 柴崎辰彦 氏


■課題解決がビジネスになる


生田目: ありがとうございます。いまのお話はどちらも個人的に共感できるところが多かったです。僕はもともとお金が稼ぎたくて社長になったタイプではありません。きっかけは何だったろうと振り返ると、大学生のときにスペースシャトルの打ち上げ事故があったことが大きかったと思います。

あのニュースを見たときに、スペースシャトルの打ち上げには、本当にいろんな分野の人が関わっていると知りました。さまざまな分野のスペシャリストが集まり、ひとつのゴールに向かって邁進する。そこにすごくワクワクしたのです。ああいうものに自分も関わりたいと考えたとき、その答えが僕にとっては、たまたま事業でした。だから、柴崎さんのおっしゃることはよく分かります。

とはいえ、組織も、立場も違う人たちが共感できるような「共通善」を設定するのは、実際にはすごく難しいのではないかと思います。広く共感を得られる「共通善」に必要な要素とは、どのようなものなのでしょうか?


柴崎: 難しい問いですが、少なくとも企業や個人に依存したものではなく、普遍的な課題を掲げなければならないのだと思います。以前、シンギュラリティ・ユニバーシティ(シリコンバレーを拠点とする教育機関)に行ったことがあるのですが、あそこでは「世界中の課題はすべてビジネスになる」と教えていました。

いま「SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)」が花盛りで、多くの日本企業がその実現を目指しますと宣言しています。しかし、そのほとんどはCSR部門が担当になっている。事業とは直接関係のない部署が推進しているケースが非常に多いんですね。

しかし、シンギュラリティ・ユニバーシティに参加していた人たちは、スタートアップの人も大企業の人も、ビジネスによる社会貢献をとても深く考えていました。同じようにペット業界でも課題解決がそのままビジネスに直結する領域が実はたくさんあるのではないかと思います。

というのも、人間とペットには極めて長い歴史があるじゃないですか。人間の生活にペットは欠かせないものだというメッセージには、誰もが納得できますよね。だから、人間とペットの関係から生じた課題にフォーカスすれば、自然と広く共感を集められると思います。

ただ、その課題解決をビジネスに転換するには、ペット業界以外のプレイヤーの知見も必要になるはずです。だから「共創」が求められる。であれば、QAL startupsが取り組むべきは、課題解決をビジネスに転換するために必要な仲間を集めるための「場」を提供することにあるのではないでしょうか。


生田目: 目指すべき理想像を打ち出したうえで、現実とのギャップを明らかにし、そこを埋めるようなビジネスを創出できる「場」を作るということですね。確かに、我々QAL startups自身がその「場」となれたらいちばんいいと思います。


柴崎: 私は最初の段階で、“いろんな手段をリトマス試験紙のようにばら撒く”ということをよくやります。自分でも初めから正解が分かっているわけではないので、とにかくいろいろ試してみて、反応があったものを深めていくのです。

富士通の社内でもオープンイノベーションの重要性を訴えるためにも、いろんなことをやりました。例えば、情報処理学会が定期的に刊行している論文集のエディターをやったこともあります。私は情報処理学会員ではないのですが、さまざまな分野の方にお願いし、オープンイノベーションがこれからのビジネスの鍵を握る、という論文を書いていただきました。

あるいは、書籍をプロデュースしたこともあります。例えば日経BPさんの協力のもと、『挑む力 世界一を獲った富士通の流儀』という本を出しました。いまの富士通が受託型ビジネス中心から、クライアントと共に新しい価値を創造する共創型の企業に必要な実践知のリーダーたちを紹介するために作った本です。

2012年からは「あしたのコミュニティーラボ」というオンラインメディアも運営しています。ここでは富士通の製品やサービスの押し売りは一切していません。「人にやさしい豊かな社会」を実現するために、どんなことができるのか、私たち自身が読者と一緒に考えるためのプラットフォームとして作りました。

こんなふうにいろんなチャネルでメッセージを発信して、そこに共感してくれる仲間を集めていく。「あしたのコミュニティーラボ」のペット版のようなものがあると面白いかもしれませんね。ペット業界における社会的な課題を世の中に問うプラットフォームがあれば、「自分もペット業界のために何か貢献したい」という人が集まる旗印になると思います。