「動物再生医療の実用化を通じて動物とヒトの幸せを追求する」Vetanic Vol.5

ペット業界の未来を拓く、QAL経営 スペシャル鼎談


ゲスト

・枝村一弥(株式会社Vetanic社外取締役 技術ファウンダー、獣医師(博士))

・望月昭典(株式会社Vetanic代表取締役)


■iPS細胞で何が変わるのか? 再生医療が身近になる? 続き


望月:脂肪が由来となるMSCは、イヌごとに取れる脂肪の量も違いますし、育ち方でも変わってくるので、ものすごくバラツキがあります。そして、それが治療成績にも反映してしまうのです。

iPS細胞由来のMSCであれば品質を均一に保ちながら大量に培養することが可能ですし、安定した効果も期待できます。バラツキがないので、病気ごとに臨床試験をすれば、投与してはいけないケースなど、安全性についてもわかります。

だから、それをデータにしてエビデンスにするのも目標にしています。私たちはiPS細胞での治療をドナーフリーと呼び、ドナーがいなくてもサステナブルな再生医療を実現しようとしているのです。


枝村:ドナーから採取するMSCは2〜3週間培養しないといけないので、手間もコストもかかります。私たちはもっと再生医療を身近に使ってもらいたいので、コストを下げる方法や普及方法を考えていきたいと思っています。

生田目:画期的ですね。MSCは具体的にどのような症例に使うことができるのですか?


枝村:いわゆる再生医療になるので、機能不全に陥っている器官や臓器の機能回復が期待できます。イヌでいえば「椎間板ヘルニア」「脊髄損傷」「IBD」「骨折」「腎疾患」などにはすでに使われています。少し前までMSCは、使えば再生される万能な細胞だと思われていましたが、実は細胞療法のようにサイトカインが自分の治癒能力を上げて治していることがわかったのです。MSCそのものが臓器を治すのではなく、環境を変えて治癒能力を高めた結果なのです。

現状、動物の薬の7割ほどは人薬を使っていますが、イヌ用にはサイトカイン製剤は使えません。その時に我々のiPS細胞由来のMSCを使うことによってサイトカイン製剤のような効果が期待できるのです。細胞療法としても貢献できると思います。

望月:今は私たちが成功したイヌ間葉系細胞の分化誘導をMSC製剤として農水省からの承認を得るべく開発を進めています。


生田目:ありがとうございます。現状の再生医療ではカバーできない点を、このMSC製剤ではカバーできるのですか?


枝村:そうですね。現在でも、再生療法に関する知見が深い臨床の先生たちは、自院で調剤してMSCを治療に活用しています。

しかし、手技を担当する獣医師によりクオリティに差があること、費用が高額になること、エビデンスに乏しく効果判定も困難であること、などによりなかなか普及しがたいのが現状です。

実際に、自家調剤でMSCを投与している先生にアンケートを取ったところ87%の方から認可されたMSC製剤を希望しているというお声をいただきました。

望月:ヒト分野では、東大医科研究所の取り組みをはじめとした自家細胞としての骨髄や臍帯の資源化(バンク)が進められていました。

2016年に世界初となるMSCを用いた移植片対宿主病(GVHD)の治療製品として「テムセル®HS注」というものが発売されました。それ以降、細胞のソースが異なったり、iPS細胞を用いたりと様々な治験が各社で行われています。実際「テムセル®」も2022年に35億円ほどの販売実績がありますが、適用はGVHDのみであり、再生医療としてはまだまだ多くの商品が実用化されてくる領域だと言えます。


生田目:可能性は未知数なのですね。ここまで様々なお話を伺いましたが、イヌのiPS細胞の研究はまだまだ入り口という感じがします。

Vol.6へ続く