獣医療において愛玩動物看護師の革命は起こるのか?
プロフェッショナルインタビューシリーズ
ゲスト
・石岡克己(一般社団法人日本動物看護学会理事長、獣医師、博士(獣医学))
■愛玩動物看護師に求められる知識や技術とは 続き
生田目:愛玩動物看護師は、具体的にはどのような業務を担う可能性が考えられますか?
石 岡:そうですね、獣医師はどのような療法食を使用するかの方向性は治療方針の一環として考えますが、複数ある製品の中からどれを選ぶか、どんな特徴があるのか、実際の与え方などの詳細は、愛玩動物看護師がご家族に説明したり、質問に答えたりすることが考えられます。
また、獣医療では臨床検査も院内で行うことが非常に多いのですが、血液を検査機器で測定したり、塗抹標本を観察して検査所見を記録したりするのは、愛玩動物看護師の業務の一つとなっていくでしょう。
獣医師は、受け取った結果をもとに診断を下し、治療方針を決定するのです。愛玩動物看護師カリキュラムにおいて、動物栄養学や動物臨床検査学を独立した科目としたのは、そのようなことが背景にあります。
生田目:だからこそ、多岐にわたるカリキュラムになっていたのですね。
石 岡:愛玩動物看護師による業務独占の職域は伴侶動物の臨床ですが、カリキュラムでは産業動物や実験動物、野生動物についても「比較動物学」として総論だけは学べるようにしています。
これは獣医療に関わる専門家としては、対象以外の動物についてもある程度の会話ができるだけの知識があるのが望ましいことの他、これらを学ぶことで、専門である犬や猫の動物の世界での立ち位置がより明確に理解できると考えているからです。
また、動物を扱う専門職としては、動物福祉や倫理についての知識も必須です。動物に関する専門的な知識だけでなく、動物医療コミュニケーションといわれる技能も必要となります。
生田目:ありがとうございます。獣医師と比較して一般的には愛玩動物看護師のほうが、飼い主様と接し、対話する機会が多いと思います。獣医学的な知識だけではなく、対話力や良好な関係構築のためのコミュニケーションなど、必要となる能力が多いのかもしれませんね。
石 岡:そうですね。実際に現場で活躍できる人材としては、獣医学的な知識に偏ることなく、様々な状況でのご家族とのコミュニケーション能力や院内の他のスタッフとの良好な関係性の構築能力なども重要です。特に高齢動物や慢性疾患を持つ動物の診療においては、ご家族は話し相手を求めていることも少なくありません。
愛玩動物看護師は、そのような状況に獣医師以上にうまく応え、ご家族の心を救う存在になることができるのではないかと考えています。
生田目:信頼して現場を任せられる愛玩動物看護師がいることで、獣医師のパフォーマンスは上がり、結果としてご家族に対してもより良い獣医療を提供することができれば、それはとても良いことだと思います。
今後のカリキュラムはどのように変わるのでしょうか?
石 岡:知識や技術に関するものであれば、必要なものは将来カリキュラムに加えていく必要があるだろうと思います。
しかしそれ以外の部分、例えば卒業して働き始めてからの新しい知識の学び方や情報の取捨選択、経験したことをどのように捉えてどのように活かすかなど、物事を賢明に考えられるように成長することは重要です。
これらの「賢明さ」といえる能力は、自分で意識して身につけ成長していくしかありません。これはどのような仕事に就いていても同じことかもしれません。専門知識の有無と賢明に物事を考えられるかどうかというのは別の話なので、教えるのが難しい部分ではあります。
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