獣医療において愛玩動物看護師の革命は起こるのか?
プロフェッショナルインタビューシリーズ
ゲスト
・石岡克己(一般社団法人日本動物看護学会理事長、獣医師、博士(獣医学))
■イギリスは看護重視の「ナース」、アメリカは技術重視の「テクニシャン」
生田目:先ほどヒトの医療におけるパラメディカルの体系の応用を参考例として挙げていただきました。その他に、海外の動物医療の仕組みなどで参考になるものはありますか?
石 岡:海外の動物医療の仕組みとして参考になるのは、アメリカとイギリスが代表格だと思います。アメリカとイギリスの動物看護師の職域は、今は少し似通ってきてはいるものの、元々はコンセプトが違うようです。
イギリスの動物看護師は「ベテリナリーナース(VN)」、つまり、看護師(ナース)としての側面を重視しています。
一方のアメリカは、「ベテリナリーテクニシャン(VT)」として技術的な側面が重視されており、獣医師にしかできない業務(診断と治療方針決定、手術、予後判定など)以外は、採血から投薬までほぼ全ての業務がVTの職域とされてきました。VTのアシスタント業務が別に設けられているほど、従来は技術的なものに特化する傾向が強かったそうです。
しかし最近では、「技術的なものだけでは発展性がないのではないか」という声もあり、少しずつ看護的なものに考え方が寄せられつつあると聞いています。アメリカでも「ベテリナリーナース(VN)」の名称は使用されるようになってきているようです。
生田目:看護志向が強いイギリスのVN、技術寄りのアメリカのVTというお話、非常に興味深いです。実は、私も以前にアメリカの動物病院を視察したことがあるのですが、VTの皆さんの仕事の速さと技術力、そして体力に驚かされました。
石 岡:アメリカの場合、獣医師の仕事は診断と治療方針の策定がメインという考え方が浸透しており、獣医師が来る前に、VTが診断に必要な準備を全て終えています。獣医師が診察室に入ってきたら、すぐに診断に入れるようにしているわけです。
日本においても、動物看護師に何を求めるかは、獣医師のレベルで異なってくるのではないでしょうか。実際、診療レベルが高い獣医師ほど、「採血や検査などは動物看護師側で進めてほしい」という考え方の先生が多いようです。動物看護師が出した一般的な臨床検査の所見を参考にしつつ、獣医師はより複雑な疾患やあまり知られていない疾患の可能性まで検討するなど、より専門性が高い検査と診断に専念できるからです。
本気で診断学に取り組めば時間がかかるのは当然ですし、レベルの高い診療を志向するほど、愛玩動物看護師との分業体制が重要になってくるのではないかと思います。
生田目:なるほど、同感です。少し思うのですが、人によって向き不向きもありそうですね。
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