獣医療業界の未来を背負う 八面六臂の活躍をする獣医師 Vol.3

獣医療において愛玩動物看護師の革命は起こるのか?
プロフェッショナルインタビューシリーズ


ゲスト

・上野弘道(東京都獣医師会 会長、獣医師、博士(獣医学))


■異色のキャリアを兼任する上野弘道。誰よりも多面的に獣医療業界をみて、新しい時代を作る 続き


生田目:日本を動物が飼育しやすい環境に変えていくために、獣医師や愛玩動物看護師はどのように行動すべきでしょうか?


上 野:やはり、まずは社会へ目を向け、関心をもつことだと思います。先ほど申し上げた日本の現状についてきちんと把握できている獣医師や愛玩動物看護師は少ないかと思います。

獣医師や愛玩動物看護師という立場である前に、自分たちが社会の一員であり、政治に主体的に関わる立場にあるということをしっかりと自覚することが重要だと思います。その一歩として、選挙にも足を運んでいただきたいです。そのうえで、今度は獣医師や愛玩動物看護師という専門的な立場を通して、何ができるか考えていただきたいです。


私はヒューマン・アニマル・ボンド(ヒトと動物の絆)は社会を変えるために非常に大きな役割を果たしてくれるのではないかと考えています。動物病院での業務はまさにヒューマン・アニマル・ボンドへ貢献しており、とくに愛玩動物看護師が国家資格となった今、動物福祉や動物愛護活動により力を入れていくことで、ヒューマン・アニマル・ボンドという概念が社会的に認められ、動物を飼育しやすい環境になるのではないかなと思います。

■今は伴侶動物を扱う獣医師3.0の時代。これから来る獣医師4.0の時代とは?


上 野:主に社会から求められてきた獣医師の役割の歴史には、さまざまな時代がありました。

まず第1の時代、私の考える獣医師1.0とは、戦争に用いられる軍馬を治療していた時代であり、これが獣医師のはじまりと聞いています。

やがて戦争が終わり、人口が増えて食肉などの生産性・安全性を高めることが求められました。そのため、産業動物の治療を行う獣医師2.0の時代がやってきました。そして、現在は私たちの身近な動物である伴侶動物の治療をメインとする獣医師3.0の時代です。この次に社会全体に影響を与える獣医師4.0時代が到来すると考えています。


生田目:獣医師3.0時代と4.0時代の違いは何でしょうか?


上 野:獣医師3.0の現在では“伴侶動物を治療するにあたって大事なことは何か”という視点で物事をみて、治療や技術の向上に力を入れてきたと思います。

それが今度は、“社会全体が良くなるために動物と人間がどのような関係で社会にあるべきか”という視点で考えていくことが重要になってくると思います。つまりは、「人の健康」、「動物の健康」、「環境の健全性」を一つの健康として捉え、一体的に守る「ワンヘルス(One Health)」の視点ですね。そしてそれは臨床獣医師だけで取り組むのではなく、非臨床獣医師や医師、自然科学の専門家など幅広く連携して知恵を出し合っていく必要がある問題だと思っています。

Vol.4へ続く