君は「可愛い部下」を、飼い殺しにしてはいないか。

「可愛い子には旅をさせよ」と言うが、君はそれを実践できているか。


実際にこれができる有能な上司は少ない。

本当に可愛い、一番育ってほしいと願う部下ほど、自分の手元から離さずに抱え込んでしまう。


だがしかし、そこで部下の成長は止まる。

そんな場面をよく目にする。


ある人が言っていた。

経営は経験の科学だ。


人は未知の環境に身を置くことで初めて、自らの足で立つ術を学ぶ。

マニュアルを教え込む段階を超えたのなら、上司ができることは一つしかない。

それは、部下に初めての経験をさせること。


君が手塩にかけた部下は、君という安住の地で、慣れた作業を繰り返すだけの人間になってはいないか。


目の前の業務が滞る、顧客に迷惑がかかる、残業が増える。


「旅」をさせない言い訳はいくらでも思いつくだろう。


だが断言する。それらは全て、「旅」をさせたくない君自身の都合だ。

失うのが怖いのは、顧客の信頼ではなく、君の管理下にいる“有能な駒”だ。

その恐れが、部下の未来を削る。


「旅」に出た部下は新しい機会を得る。

部下自身が新しい場面に適応するため、一人で考え、決断する。

一瞬一瞬が彼にとってのチャンスそのものだ。


部下を育成するとは、その人間の未来に対する敬意と愛情の表れであるはずだ。

自分の管理下に置き続ける行為は、その敬意を欠き、部下の挑戦する権利を奪うことに他ならない。

それは育成ではなく、顧客の不便を逃げ道にしたコンフォートゾーンへの軟禁だ。


君の部下は、今日、旅をしているか。

それとも、君の隣で昨日と同じ景色を眺めているだけか。


成長とは常に、不安と恐怖と挑戦の先にある。

思考を止めさせてはならない。


手元の戦力として囲い込むな。

目先の業務効率への不安を乗り越え、あえて一人で未知の荒野を歩かせる勇気を持て。


その時間こそが、部下を本物のプロフェッショナルへと鍛え上げるのだ。


明日、君の右腕たる部下に、君の目が届かぬ仕事を一つ任せてみよ。


それこそが君がやるべき本当の育成の姿だ。